著 者:竹内義和
和歌山県・竹内歯科クリニック/口腔外科医

筆者はこれまで、高周波治療器(Cosmoシリーズ・(株)コスモデンタル)を応用した口腔領域への高周波電気治療に関する論文を発表してきた。2006年4月には、外科的Diathermyと内科的Diathermyの医学的位置付けに成功した。本稿では、顔面口腔領域の外傷、傷および口内炎への応用を症例別に紹介する。いま話題の“うるおい治療”にDiathermyの真髄である内科的Diathermyを併用することで、いままでの治療法の常識を破るような結果に遭遇することがある。超短波(療法)を用いた“創傷治癒”に関する研究は数々なされており、治癒を促進する論文がみられるが、Long Waveに関するものは、筆者が初めてである。
【Key Word】
内科的Diathermy
HSP(Heat Shock Protein)
湿潤療法(ラップ療法/うるおい療法)
内科的Diathermyの生物学的作用から
- 1.外科的 Diathermy
- 外科的Diathermy(以下、外Dと略)を、今回はジュール熱を利用した電気メスとして利用し、病変部の切除、切開に用いた。
- 2.内科的 Diathermy
- ラジオ派Diathermy(LWD:Long Wave Diathermy)の生物学的作用は現在検討中であるが、いままでの臨床結果から、超短波(Short Wave:狭義の短波Diathermy/周波数:10~100MHz、波長:3~30m)生物学的作用がそのままあてはまり、さらに効果が増強されるように思われる。
超短波の生体作用については、1926年以後Schliephakeを始めとして多数の研究があり、特徴として※表1の作用が挙げられる。
前記の諸作用が総合的に作用して身体あるいは局所の抵抗力を高め、化膿性炎症が抑圧されるのである。内科的Diathermy(以下、内Dと略)による傷の局所温度の上昇は、マクロファージの貪食機能を高めるため、これが創感染を防ぐのに役立っている。同様に、表皮細胞の分裂も温度が高いと亢進され、結果として急速な上皮化が得られる。
※表1 超短波の生体作用
- 微小血管の拡張→血液循環がよくなる。
- 温和な透熱の深達性→HSP産生につながる。510KHzの場合はまさに“湯煎”の温度で、透射後、数時間持続するからHSP産生にも好都合である。
- 殺菌・抗毒素作用→結核菌の殺菌作用、ジフテリアにおける抗毒素作用など多くの研究がある。ペニシリンなどが開発されるまでは、抗生物質の代わりをしていた。
- 抗炎症作用。
- 鎮痛・鎮静剤作用。
- 止血作用→筆者がLWDで初めて発見したもので、局所HSPの産生は止血機構を促進させる。
- 3.内科的Diathermyの効果
- Diathermyには、温熱効果と非温熱効果があるが、結局、原理は同じで、透写部位が大きく、高出力であれば温熱効果として、病変が小さく、低出力であれば非温熱効果として作用するのである。電界治療における温熱産生(誘電加熱)の機序はすでに説明している。
(1)温熱効果
①微小血管の拡張、②神経伝達速度の上昇、③痛覚閾値の上昇、④筋力の変化、⑤酵素活性の促進、⑥軟組織の伸展製の増加。
(2)非温熱効果
短いパルスで、低い周波数、短時間でDiathermy透射を行うと、温熱効果はそれほどみられない。これは、透射によって温度上昇が起きても、次のパルスの間に血管環流で温度が拡散されてるためである。しかし、温熱効果と同様の生物学的作用を有することは報告されている。(※表2)
以上の理由から、下記のような臨床的適応症が挙げられる。①疼痛と浮腫のコントロール、②鎮静作用、③創傷治癒の促進、④神経損傷の治癒促進、⑤化骨促進作用
※表2 非温熱効果の生物学的作用
- 微小血管血流量の増加Mayrovitz(1995)は、PSWD(パルス型短波Diathermy)を用いて糖尿病性潰瘍患者の潰瘍部と被験者での局所の微小血管血流が増大することを報告している。局所組織の酸素化、栄養素の取り込み活性、マクロファージの貪食作用も高められる。
- 細胞膜機能と細胞活性の変化。電磁場は、細胞膜へイオン結合に影響を与え、線維芽細胞と神経細胞における成長因子の活性化とマクロファージの活性化の引き金になるといわれている。また、PSWはCaイオン結合を変化させることにより、細胞周期の調整に影響を与える。電磁場に曝すことにより、細胞の成長と分裂が遅すぎる場合には促進させ、早すぎる場合には抑制することも知られている。この作用が生体の自然治癒力とともに臨床上非常に有利に働く。
HSP産生作用から
熱ショックタンパク(HSP:Heat Shock Protein)は、加温したショウジョウバエの体内から、1962年にアメリカで発見されたその後、ヒトをはじめ多くの生物で通常体温より約2℃だけ体を温めると体内にHSPが発生することが明らかになった。HSPは文字通り熱というストレスによって作られるタンパク質で、感染・傷害・疲労などで傷ついた細胞を修復し、生体をストレスから防御してくれる。 近年、HSPががんや病原菌をみつけ出し殺傷するNK細胞の活性を高めたり、抗原提示によりがん細胞を免疫担当細胞が攻撃しやすくすることがわかった。正常細胞を加温してHSPを増加させ免疫力を高めたら、種々のストレスに対して細胞は強くなり、正常細胞や弱弱しい細胞を元気にすることができる。正常体温より約2℃高めればよいので、これを“Mild加温”と呼ぶ。筆者の行っている内Dはこの温度変化を利用したものである。※表3にMild加温の効果を示す。 以上がLWDの温熱産生作用による利点である。病気になったり精神的・肉体的苦痛を感じると細胞の中のいくつかのタンパク質は変質する。凝集したり、委縮したりして構造異常を起こす。このとき、ドーナツ型をしたHSPは“救急救命センター”のような働きをしてくれる。(※表4) 外科的処置前後の術前・術後透射で、術後疼痛の激減、創傷治癒のスピード化(非透射群に比べ2~3倍の速度で治癒)を図ってきたが、これもHSPの産生が推測される。現在、内Dによる血中HSPの測定を検討中である。
※表3 Mild加温で得られる効果
- HSP70(ストレスタンパク)が誘導される。
- 免疫能が上がる[白血球増加、NK細胞の活性、抗原提示能増加、INF(インターフェロン)産生、TNF(腫瘍壊死因子)産生:Tu-mor Necrosis Factor]
- 血流がよくなる
- 乳酸の産生が遅れる
- 体温が上がる
- 汗が出る
- エンドルフィンが誘導される
- 老化を防止する
表4 HSPの働き
- 構造異常を起こしたタンパクをドーナツの内側に取り込み、遺伝子レベルの複雑な聖地学的作用を経て、元の正常細胞に戻してドーナツの外へ返してくれる。この現象が創傷治癒である。
- “免疫”つまり、“生体防御作用”をサポートする働きがある。NK細胞の活性を高める働きがある。これは表在性のウイルス性疾患、たとえばヘルペスなどには効果が大きい。
- 樹状細胞といって“ここにこんな病原菌がいる”と免疫系に緊急連絡(抗原提示)を発する細胞がある。HSPはこの樹状細胞の数を増加したり、その作用を高めたりする機能を備えている。このようにHSPは、免疫力を高める力も備えている。
湿潤療法から
Wound(傷)の研究者の間では「傷は乾かしてはいけない、消毒薬は傷が治るのを妨害する」ということは常識になっているが、現場の医師とくに歯科医師には、“湿潤治癒(うるおい治療)”はほとんど知られていない。 夏井の発想の転換は、われわれ歯科口腔領域からのものである。口蓋の火傷、すなわち熱い食べものや飲みもので粘膜が熱傷を起こしても、翌日にはほとんど治り、消毒もせず、ガーゼも当てないのに化膿もしない。理由は簡単で、口腔内は常に唾液でうるおって(湿潤して)いるからである。傷口のジュクジュクが大切で、これが細胞成長因子で培養液に相当する。 しかし、培養液を拭き取っては線維芽細胞が遊走しないし、消毒薬(歯科ではポビドンヨード、クロルヘキシジンなど)が多用されているのが現実である。けれども、消毒薬は傷が治るのを阻害しているのである。消毒の原理は細菌のタンパク変性を目的としている。それでは抜歯窩に用いた場合、細菌と粘膜上皮細胞や線維芽細胞などの区別がつくだろうか?たとえば、テロリストと市民の区別は難しく、区別がつかないので、全員攻撃するのと同じ論理である。 口腔領域でも湿潤治療に基づいた処置で消毒薬を用いないほうが、傷が傷まず、化膿せずに早く治癒する。さらに内Dの生物学的作用とHSPの働きを加えることで、常識を破るスピードであとかたなく治る。
顔面外傷への応用
- 症例.1 ○顔面外傷(擦過傷、皮下出欠斑、図1~6)
- 患者:63歳、女性
医療面接:4~5歳時に肺炎で入院。胃がん手術(1993年)。現在、不整脈(心室性期外収縮)、ペニシリン・サルファ剤で湿疹。
診断および治療経過:
2006年10月7日;お寺の境内でつまずき転倒。当日は救急でMRIやX線検査等にて骨折の有無を確認。
10月9日;外科で傷の処置。抗生物質の投薬なし。右頬骨部擦過部にテープのみ。
10月10日;受傷3日目に来院。とくに大きな異物混入がなかったため、生理食塩水でDe-bridmentを洗浄後、ゲンタシン軟膏(99.9%白色ワセリン:white petrolatum)を塗布し、さらにラップ療法(ポリウレタンフィルム・ドレッシング材)を行った。右内眼角部、右頬骨弓部、右オトガイ部、右下顎角部に病変部相当大のApplicator(導子)で内D各5分間透射。クラビット、ノイダーゼを投与した。
10月11日;前日と同様の透射時間。ラップは除去し、傷表面のみ洗浄。
10月12日;同様の透射時間、傷表面のみ洗浄。
10月13日;同様の透射時間、傷表面のみ洗浄。
以上で完治した(殺菌・消毒薬は一切使用していない)。
ツルツルの皮膚が再生したということは、傷の上皮化が完了したということである。表皮(外胚葉)欠損が起こって、その下の真皮(中胚葉)が露出しても、毛穴・汗管は真皮の奥まで残っているため、この外胚組織が傷の表面に顔を出して上皮化が進み、周囲に広がって、互いに癒合して表皮が再生(上皮化)する。再生した皮膚は、しわひとつなく、赤ちゃんのほっぺのようにピンク色をしてツルツルしているのが特徴である。生まれたての皮膚は色素沈着を起こしやすいので、UV対策が必要である。

- 症例.2 ○下口唇外傷(裂傷、糜爛、図7~9)
- 患者:9歳、男児
医療面接:特記事項なし
診断および治療経過:
2006年2月27日;マンションの階段で転倒。脱臼と切端による下口唇の裂傷と出血。救急センターからの依頼にて来院。止血後、水道水でよく洗浄して観察すると、粘膜上皮欠損がみられた。この程度なら、止血が得られれば縫合の必要はない。局所的にはワセリン塗布後、内Dを5分透射。
2月28日;翌日には粘膜上皮が再生。ワセリン塗布後、内Dを5分透射。
3月1日;ワセリン塗布後、内Dを5分透射。“創傷治癒は湿潤環境でないと進行しない”口腔内の傷は痂皮を作りやすく、口腔粘膜より治癒が遅い。しかし、赤唇の傷でも軟膏などで乾燥を防ぐと、非常に早くきれいに治癒する。

顔面形成外科への応用
- 症例.3 ○口唇部黒子(図10~12)
- 患者:63歳、女性
医療面接:子宮外妊娠(1986年)、右白内障手術。その他特記事項なし。
診断および治療経過:
口唇部黒子(Lentigo)。
2006年8月22日;居麻下にて正中部を外Dにより基底細胞層まで切除。その後、ワセリン塗布後、内D透射。ポリウレタンフィルム・ドレッシング材によるラップ療法(+)。
8月23日;1日で上皮の再生が観察される。真皮まで及ばない場合は、表皮再生はきわめて早い。ワセリン塗布後、内D5分塗布透射。ラップ療法(-)。
8月29日;局麻下にて右側黒子を外Dで切除。ワセリン塗布後、内D5分透射。ラップ療法(-)。
9月15日;2週間後、全経過を通じて抗生物質と消毒薬はまったく使用せずに完治した。

- 症例.4 ○アテローム(図13~17)
- 患者:71歳、女性
医療面接:鉄欠乏性貧血、変形性膝関節症、シェーグレン症候群。ドライマウスは当院で内Dを用いて加療中。その他特記事項なし。
診断および治療経過:
2006年9月12日;かねてより摘出希望の前頭部のアテローム(Atheroma)を外Dにて切開。手術後の傷跡が気になるので、表面皮膚の切開は最小限にして、皮膚の下の粉瘤のみを摘出する。提出後、縫合→ゲンタシン軟膏→ラップ療法→内D。全身的には42℃のフロに入り、HSP産生を促す。
9月13日;翌日には縫合部の癒着がみられる。
9月15日;術後3日目に抜糸。

- 症例.5 ○皮下出血斑(図18,19)
- 患者:60歳、女性
医療面接:右変形性膝関節症の手術(2002年)、脂質異常症(240mg/dL)で服薬中。その他特記事項なし。
診断および治療経過:
2005年3月1日;6フィクスチャー埋入(GBR/チタン膜併用)。術中は出血量も少なく、問題ないと思われた。
3月10日;術後10日目に内出血があったのか、顎下縁部皮下出血斑を認める。即座に内Dの透射で消失を図る。局所と体温上昇によるHSP産生と内Dの効果があった。
3月15日;5日後には完全に皮下出血斑が消失。

口内炎への応用
- 症例.6 ○アフタ性口内炎(図20~22)
- 患者:57歳、女性
医療面接:鉄欠乏性貧血(内服)、胃ポリープ手術(1997年)。その他特記事項なし。
診断および治療経過: アフタ性口内炎(Aph-tha)。上唇部のアフタに内D5分透射。口腔内のバイオフィルムは除去するが、病変部の消毒などは一切していない。透射直後に疼痛は消失した。透射後には、化学療法(LDDS)と併用すると劇的な早さで治癒する。早期にQOLを高めることができる。
- 症例.7 ○口角炎(図23~25)
- 患者:57歳、女性
医療面接:鉄欠乏性貧血(内服)、胃ポリープ手術(1997年)。その他特記事項なし。
診断および治療経過:
口角炎(Angular chei-litis)。ゲンタシン軟膏の局所塗布と内Dを併用することで、2日後には患者本人が完治と思うほど治癒が早かった。

- 症例.8 ○扁平苔癬(図26~29)
- 患者:73歳、女性
医療面接:糖尿病、胃炎、高血圧(160/100mm Hg)、うっ血性心肥大、狭心症、脊髄梗塞があり、白内障手術、左変形性膝関節症の手術などにより、約10種類の薬を服用している。(デゾラム、ウルデナシン、ガスモチン、アルセチン、ジブキシサンド、アプレース、ディオパン、エペナルド、ガスポート、ケンタン)
診断および治療経過:
2007年5月30日;右臼後三角、齦頬移行部、頬粘膜にわたる扁平苔癬(Lichen Planus、図26)。食事時が苦痛でQOLの低下が著明。病変部をオゾン水で洗い、内D透射。投薬は一切していない。
6月1日;病変部と外表部からサンドイッチ透射、10分(図27)
6月4日;「お蔭様で」と言われるようになった。約50%治癒。わさびやその他の香辛料でも痛みを感じなくなった。サンドイッチ透射、10分。
6月9日;約80%治癒(図28)サンドイッチ透射で思わぬ効果が出現。ドライマウスが治ってきたのである。多剤服用患者によくみられる現象なのだが、いままで睡眠時に枕元に200mLの水を置き、夜中に口渇が出ると、1~2時間おきに水を飲んでいたのが不要になり、朝まで熟睡できるというのである。これは、右側耳下腺・顎下腺付近に同時に透射されているためで、ドライマウスの治療が同時に行われたことによる。おかげで安定剤、睡眠剤を服用しなくてもよくなった。

- 症例.9 ○単純ヘルペス(図30~32)
- 患者:75歳、女性
医療面接:胆嚢炎および膵臓炎(服用中)、子宮がん全摘(1997年)、左右卵巣摘出(1997年)、狭心症(服用中)、降圧剤服用中。
診断および治療経過:
6月13日;右側口蓋の痛みに気づく。単純ヘルペス(Herpetiform Ulceration:Herpes sim-plex)と診断し、内D5分透射。
6月14日;患者は約30%程度治癒と表現するが、1日で病変はここまで治癒している。
6月15日;患者は完治と表現するが、約90%の治癒がみられる。臨床上はほとんど症状はないようである。投薬は一切していない。
ヘルペスに関する電気治療の報告は古く(1974)、ヘルペスには脊柱にSWD(Short Wave Diathermy:超短波)を応用することにより効果があることが認められており、顔面ヘルペスでは頸椎および後頭部へのSWDで効果がある。この当時より、発疹が出て水疱が出るまでのできるだけ早期に応用すべき(2週間以内)と述べている。しかも、早ければヘルペス後疼痛が出現しないと報告されている。

まとめ
LWDの生物学的作用を十分活用し、さらに全身および局所を約2℃上昇させてHSPを産生させ、さらに“湿潤療法”を併用することで、従来の化学療法・薬物療法を中心とした傷の治療法では考えられないスピード(約3倍)で治癒することがわかってきた。このことは、日常の抜歯、切開、その他の口腔内の手術にも応用でき、30年来ステロイド剤療法以外に進歩がない軟知性と言われてる口内炎(扁平苔癬など)にも大いに期待できる。
参考文献

